在庫とは、企業が販売や生産のために原材料や製品を保有することを指します。
1. 在庫の役割:需給の調整
在庫の大きな役割の一つは、需給の調整 です。
需要は常に一定ではなく、次の4つの波動によって変動します。
- 通常波動(日常的な需要の変動)
- 季節波動(夏物や冬物、年末商戦など、季節ごとに変動する需要)
- 販促波動(セールやキャンペーンによる一時的な需要増加)
- 人為波動(災害や社会情勢の変化による突発的な需要変動)
このような変動に対応するためには、原料調達・製造・物流・納品までのリードタイムを考慮し、事前に計画を立てることが不可欠 です。さらに、需要予測が外れた場合や、サプライチェーン内でトラブルが発生した際のリスクを軽減するために、安全在庫(バッファ) を持つことが求められます。
つまり、需給の変動と時間のギャップを埋めることが、在庫の重要な役割の一つ となります。
2. 在庫の役割:リスクの緩衝材
在庫のもう一つの重要な役割は、リスクの緩衝材として機能すること です。
前述の安全在庫は、需要予測のズレを補うためのものですが、ここでの「リスクへの備え」は、より広い視点からの事前対策 を指します。
かつて大量生産・大量消費の時代には、在庫は「資産」として扱われ、増やすことが問題視されることはありませんでした。しかし、消費者の嗜好が多様化し、少品種・小ロット生産 の時代に入ると、在庫は「売れ残りリスク」を抱える存在となりました。さらに、在庫を保管するためのコスト(倉庫費用・輸送費など) も無視できない負担となり、ジャストインタイム(JIT)やリーン生産方式 など、極力在庫を持たない生産方式が主流となりました。
しかし現在では、在庫の「リスク」を軽減するために、必要なバッファとしての重要性が再評価 されています。
- 自然災害(例:東日本大震災)
- 感染症の流行(例:新型コロナウイルスによる生産・消費の停滞)
- 地政学的リスク(例:国際紛争や貿易摩擦)
このような不測の事態に直面した際、グローバル化したサプライチェーンでは、どこでどのようなトラブルが発生するか予測が困難です。そのため、一定の在庫を確保しておくことが、企業の持続的な事業運営において不可欠なリスクヘッジ となります。
3. 在庫の適正水準とは
在庫には、①需給の調整機能と ②リスクの緩衝材という2つの大きな役割 があります。
コストの観点からは、在庫は少ないほど望ましい ですが、近年ではサプライチェーンの強靭性(レジリエンス)と持続性 が重視されており、企業ごとに適正な在庫水準を戦略的に決定することが求められています。
在庫をどの程度持つべきかは、経営方針と市場環境に基づいた慎重な判断が必要 です。
